社長に求愛されました


「ここに来る前に、簡単にできるヤツを美容師から教わってきたんだよ。
言っておくけど、俺手先は器用な方じゃねぇし凝ったのなんかできねぇからな」
「……凝ったのなんかできたら軽く引きます。
それより、社長はそれで行くんですか?」

篤紀が着ているのは、毎日着ているようなスーツだった。
思いきり緩めているネクタイは直前に締めればいいとして、こんないつも通りの格好でいいのだろうかと不思議になる。

自分はこれからドレスを着て髪までどうにかしないといけないのに、と。

「男はいじる部分ねぇしな。仕事も結婚式もスーツが正装なんだよ。
まぁ、ネクタイ変えればいいだけだから楽だけどな」
「社長にしては珍しい色ですね、淡いブルーなんて」
「ああ。一応めでたい席だし。昔は白とかシルバーしかダメとか言われてたけど、今はパステルカラーくらいまでは許容範囲だから、無難にな」

ネクタイを見ていて、胸ポケットから覗いているチーフに気づく。
わざわざ合わせたのか、それも同じ淡いブルーだった。


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