社長に求愛されました


「社長って……ちゃんとした大人だったんですね」

いつもあまり仕事をしないし強引だし俺様だしで、まるで子どもみたいだと思う事も少なくないちえりにとって、冠婚葬祭をきちんと理解している篤紀の姿はただただ感心してしまうのみだった。

しかもいつもはそのままの髪も、今日は整髪料を使って少し上げて後ろに流している。

いつもと同じようなスーツなのに、いつもとは違う人に見えてしまって……騒ぎ出そうとする胸を抑えつけるように、ちえりが篤紀の持ってきたドレスを手に取り胸に押し付けた。

「……着替えたいんですけど」
「ああ、じゃあ後ろ向いとくから」
「できれば外出てて欲しいんですけど」
「別に覗かねぇよ。そんな軽率な事して嫌われたくねぇし」

そう言う以上は覗くような事はしないだろうと判断して、ちえりが服を脱ぎ始める。
いつも文句ばかり言ってはいるが、信用はしているのだ。
篤紀が嘘をつくような男でも、いい加減な男でもないという事は、ちえりだってきちんと分かっている。

もちろん篤紀も、言葉通り覗き見るつもりなんて毛頭ない。
ちえりの着替えを見たくないのかと問われれば答えはNOだが、そんなつまらない事をして嫌われたくないというのは本音だった。


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