社長に求愛されました
そんなしっかりしているちえりは、外見は別にして儚さとはかけ離れていると、篤紀も思うのだが……。
ちえりの内面を知っても、未だ篤紀の中のちえりへの印象は変わっていない。
むしろ、危なっかしい一面や、咄嗟の時の行動力を持っている事を知ったからこそ、余計にちえりに感じる不安定感は増していた。
だからこそ、周りに過保護だと口々に言われるほど執着して常に隣に置いているわけなのだが。
ちえりがいなくなったらひどく不安定になる自分を、篤紀も自分で分かっているから。
ベッドの上で胡坐をかきながら、目の前の白い壁をじっと見ている篤紀の耳に、シュルシュルと布のこすれる音が聞こえてくる。
その音に想像が掻き立てられ、こんな生殺し状態にされるならいっそドアの外に出ておけばよかったと後悔した。
背中から聞こえる衣擦れの音をかき消すように、篤紀が目を閉じて頭の中に貸借対照表を浮かべ適当な数字を入れていた時、ちえりがあの……と声をかけた。
「着替えられました……が、これ絶対社長が買ってきましたよね」
顔をしかめたちえりが、ドレスのスカート部分を指先でつまむ。
篤紀が持ってきたのは、篤紀のネクタイやチーフと同じ色をした膝丈のワンピースドレスだった。