社長に求愛されました


少し身体をずらして姿見を見ると、クロスがふたつついたシルバーのネックレスが確認できた。
一センチほどのクロスは、淡いブルーでアメジストが敷き詰められていて、その2/3の大きさの小さい方のクロスは、ダイヤが敷き詰められているデザインのものだ。

ペンダントトップで揺れるふたつのクラスを見ながらちえりが聞くと、篤紀はしれっと「それも弟の」と答えた。

「そんなわけないじゃないですか! 言っておきますけど、このドレスの事だって騙されたわけじゃないんですからね。
ツッコんでももう仕方ないと思っただけで」
「うるせぇな。いいだろ、別に。いちいち怒るな」
「無理です。わけの分からないプレゼントもらうわけにはいきませんから」
「こういう時じゃねぇと何も受け取らないだろぉが、おまえは。クリスマスだってホワイトデーだって誕生日だって、5000円以内の物しか受け取らないとか釘刺しやがって」
「それだって譲歩したじゃないですか! 2000円までって言ったらその日からずっと不機嫌で仕事に支障が出るって綾子さんが言うから仕方なく。
しかも、私がいくらか知らないのをいい事に、毎回社長は金額オーバーで違反してるって分かってるんですからね!」
「もらえるモンは黙ってもらっておけばいいだろっ」
「そんな甘えるような事できません!」

一歩も引かないちえりにまた言い返そうとした篤紀だったが、昔の事を蒸し返してケンカしている場合ではないと思い出し、気を取り直す。

「とにかく、髪やるから、そこ座れ」
「あ、はい」


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