社長に求愛されました


床にあぐらをかいた篤紀が、自分の前にちえりを座らせる。
それから、ちえりから借りたクシで髪をとかし、左の耳当たりでひとつに結ぶ。

髪を上げると、さきほどつけたネックレスがキラっと光った。
ちえりに言われるまでもなく、これは篤紀が選んで購入したものだった。
選んだドレスがチューブトップだし首元が寂しいだろうと、都合のいい言い訳をつけて、ちえりにアクセサリーを贈ろうと思ったのだ。

そしてすぐ目にとまったのが、このネックレスだった。
二月生まれの篤紀の誕生石のアメジスト、そして四月生まれのちえりの誕生石のダイヤモンド。
そのふたつの宝石でできたふたつのクロスがまるで寄り添うようなデザインは、見た瞬間運命を感じるほどの衝撃だった。

まさに自分たちのためにあるネックレスだと思った事をちえりに言えば、買ったのがバレてしまうし男のくせにロマンチストすぎるとバカにされそうでコケンにも関わるから絶対に言わないが。

きっとちえりは篤紀の誕生石などは知らないし、完全な自己満足。
それでも、ちえりの首元で揺れるそれを見られれば篤紀にとっては十分だった。

「あの……社長、本当に任せて大丈夫なんでしょうか」
「ああ、秘密道具借りてきたから」
「秘密道具?」


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