社長に求愛されました
小学校の時姿を消した父親、中学の時に亡くなった母親。
そこからは、洋子の家で過ごしてきた。
洋子はよくしてくれたし、大好きだけれど……甘えたり頼ったりという事はできなかった。
自分と慎一の生活を見てくれているだけでも面倒をかけていると思っていたし、金銭的に負担をかけている事も分かっていたからだ。
それを分かった上で、精神的なものまで頼るなんて事は、ちえりにはできなかったし、母親が亡くなった時に、頼る甘えるなんて事は無意識に頭の中から消していたのかもしれない。
自分のできる事はすべて自分でやるのが普通だった。
甘えたいだとか、そんな風に感じた事はただの一度もなかった。
篤紀も、ちえりの家庭の事情については知っている。
傍に置きたいと意識してからは、強引に何十回とこの部屋にも押しかけているし毎日のようにランチにちえりを誘い出しているから、話す時間は十分だった。
そんな中で、ちえりの生い立ちの事などは聞いていたから、今の言葉の影に隠れたちえりの気持ちも理解する事ができた。
「別に難しい事じゃねぇよ。ただ、俺が差し出した優しさは素直に受け取ればいいだけの話だ」