社長に求愛されました


ちえりの気持ちは分かっているし、そういう生き方をしてきたのだから今更すぐに変わるとも思えない。
だけど、それを分かっていても、せめて自分に対してだけは気を許して欲しいと思う気持ちは止められない。

そんなもどかしさから、少し横柄な態度で言った篤紀を、ちえりが前を向いたまま笑う。

「社長の優しさを全部受け取ってたら、私はわがままで手のつけられないダメな人間になりますよ」
「その前におまえは俺の好意を受け取る気なんかこれっぽっちもねぇだろ」

ふんと不貞腐れたように言った篤紀に、ちえりはなぜか黙った。
いつもなら、当たり前ですとすぐにぴしっとした答えが返ってくるようなやりとりだったのに、と篤紀が不思議がっていると。
ちえりがようやく口を開く。

「そんな事ないです。ダメだって思ってても……特別に想ってる人に優しくされたら、私だって揺れます」

そう。いくらしっかりしていたってちえりだって年頃の普通の女の子なのだ。
誰が見てもカッコいい男に、四六時中気をかけられて優しくされれば気が揺れないハズがない
しかももう既に好きなのだから、無意識にその大きな手に甘えてみたくなる時だって当然ある。

それでもそれを表に出さないのは、今は恋愛どころじゃないと思っていたからだ。

自分で決めたライン。
だからこそ、甘えや気の迷いから気持ちに左右される事もあるわけで。



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