社長に求愛されました
篤紀にとっては、大切な存在だとかかけがえのない存在だとか、ちえりからそんな風に言われてもちろん嬉しいし、それは今までに例を見ないほどのレベルなのだが。
ちえりの口ぶりが、迷惑なんですとでも言いたそうなため、喜びに浸りきれずに呆れ笑いになってしまう。
「悪いですよ。だって、私がせっかく向き合うって覚悟決めたのに、それなのに急に遠くなっちゃって……。
遠くなっちゃうくせに、相変わらず構ってくるし」
「遠く? 別に遠くねぇだろ。引っ越してもないし、何も変わって……ああ、新しい職場での事言ってんのか?
だったら部屋も同じだし、デスクだって……」
「そういう事じゃなくて!」
遮るように言ったちえりが、じっと篤紀を見つめて、腕を上げる。
そして篤紀の肩に指先で触れた。
「遠くなったのは、ここ」
言いたかったのは、肩書だとか立場だとかそういう事だった。
今篤紀を責めているのはただの八つ当たりだと言う事は分かっていた。
距離を縮める事を怖がってもたもたしていたのはちえりであって、篤紀は何も悪くない。
ちえりが踏みとどまって決心を決めている間に、その距離はもう縮められる距離じゃなくなってしまったとしても、それは篤紀のせいじゃない。