社長に求愛されました
篤紀もちえりの家庭の事情や父親の事は知っているが、それについて何かを思った事はただの一度もない。
ちえりの甘えられなかったり意地っ張りなところを見ると、そういう環境を与えられてこなかったからかと、胸を痛めたりはするが育ってきた環境についてどうこう思ったりはしない。
あくまでも大切なのはちえり本人であって、極端な話が他はどうでもいいのだ。
もしも、周りがうるさく言おうがなんだろうが、ちえりの耳に入る前にすべて手を回して黙らせればいいと、そういう考えだった。
ちえりがいつかファミレスできちんとした人と結婚した方がいいと口にした事は覚えていたが、その時そんな心配はいらないとすぐに否定した事も覚えている。
だから、ちえりのそんな心配はその時払拭できたと思っている篤紀にとっては、今、ちえりが何を遠いと思っているのかは分かるハズがなかった。
じっと、少しツラそうに顔を歪めたちえりに見つめられた篤紀が、肩に触れていたちえりの指を手ごと握りしめる。
そしてそのまま、自分の胸にちえりの手を押し付けた。
「なにが遠いんだか分かんねぇけど……俺は今ここにいる。おまえの手が届く場所に。
おまえが嫌がってもこの距離から離れるつもりはこの先何があってもない」
驚いた表情を浮かべた瞳が、篤紀を見つめる。
「だから、おまえもいつまでも意地張ってないで頷けよ。
……俺の事、嫌いじゃねぇだろ?」