社長に求愛されました
だったら。
篤紀との立場の差を気にして、今後もそういう覚悟が持てないのであれば突き放すべきだ。
篤紀を想っているからこそ、この先もきっと気持ちは変わらないし突き放すべきだとも思うのに……。
篤紀が背中に回した腕の強さが、それを止める。
「社長……」
「言わなくていいから」
「え?」
腕の中にすっぽりと抱き締めたちえりに、篤紀がゆっくりと言う。
「ちえりが言いたくない事なら、言わなくていい。
だから……俺を拒絶しないで欲しい」
驚いた瞳から、収まったハズの涙が溢れ落ちる。
ちえりはそのまま何も言わずに、そっと目を閉じて篤紀の背中に手を回す。
突き放すべきなのに……。頭の中での答えは既にもう決まっているのに、包まれる篤紀の腕の強さに、すがっているようにも聞こえる声に、拒絶の言葉が出てこない。
近づく覚悟も、離れる覚悟もできないまま、篤紀の胸に顔を埋めた。