社長に求愛されました


絶対に違うと思い、綾子が苦笑いを浮かべる。

篤紀がちえりを連れまわすのは、勉強なんかではなくただの独占欲だ。公私混同だ。
けれどもまぁこの場合は勉強のためと銘打っておいた方が無難そうだと、事の成り行きを見守る。

和美はふぅんと呟くように言った後、口もとに笑みを浮かべてちえりを見定めるように視線を這わせた。

「高瀬さん、隣に置いておくには可愛いしちょうどいいんでしょうね。
うちのパパが、高瀬さんに黒崎さんがたぶらかされてるんじゃないかって心配してたのよ」
「え……?」
「私がね、もしかしたら同級生かも~なんて話をした時に、確か片親だったって話もしたからそれで。
お金に困ってるだろうし、それ目当てで黒崎社長に近づいたんじゃないかーなんて。
ああ、気を悪くしないでね。ただの冗談なんだから」

どう考えたって今の発言はちえりの気を悪くさせ落ち込ませるのが目的だとしか思えなかった。
一連のやり取りをみていた綾子は思いきり眉を寄せて怒りをあらわにしそうになったが、ぐっと堪える。

ここで怒るのはマズイ。相手は白石出版の社長令嬢なのだから、個人のケンカではすまなくなる。


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