社長に求愛されました
「ただ、こういう場にまで出しゃばって出てくるようだと、黒崎さんの信用にも関わるし気をつけた方がいいんじゃない?
バイトを連れてきたなんて知られたら、黒崎さん、みんなの笑い者よ。
バイトの若い子なんて連れて歩いてたら、さっきの話じゃないけど、それこそお金とられてるんじゃないかとか邪推されかねないし」
「……そうかもね」
「あ、誤解しないでね。私はそんな風には思ってないの。
ただ、黒崎さんの周りの人はあまりよく思わないだろうし、そんな世界に急に飛び込んでいくのは高瀬さんだって身の丈に合わないでしょうって事を言いたかっただけで。
高瀬さん、ロミオとジュリエットって知ってる?」
「え? あ、うん。詳しく知ってるわけじゃないけど、あらすじくらいなら」
「あのふたり、想い合ってたにも関わらず、周りの反対を受けて最後は死ぬ事しかできなかったのよね。
可哀想だとは思うけど……でもそれが現実だと思わない? ふたりきりでなんて生きていけないんだから周りの意見は大事だって」
それに対しては悔しくも同感だ、と綾子が小さく舌打ちをする。
ロマンス物が好きではない綾子にとっては、あの話は好きな部類ではない。
感情のまま突っ走るのはどうかとも思うし、お互い立場のある身だったにも関わらず駆け落ちしようとして最後は死においやられた。
もしも生きながらえていたとしても、果たしてそのままうまく行っただろうかと、そんな事が気になってしまう。
親や家柄に守られて育ってきたお嬢様とお坊ちゃまが、ふたりきりにされて生活なんかできるだろうかと。