社長に求愛されました


冷めた見方だと言われようが、夢物語には興味のない綾子はそういう事ばかりが気になってしまうのだ。
童話のシンデレラでさえ、ラストを迎えた後、価値観の違うふたりがそのまま幸せに暮らせたのだろうかと疑問に思う。

だから、和美の今の意見に対しては同感ではあるのだけれど……。
気に入らないのは、和美が言葉の裏に隠しているであろう真意だった。

感情を抑えこんだ表情でいるちえりに、勝ち誇ったような笑みを浮かべる和美が綾子の予想する真意を口にする。

「あのふたりは立場が同じようなものだったのにダメだったの。
これが、大企業の御曹司のロミオと一般庶民のジュリエットだったら……ラストはもっと悲劇的なものだったかもしれないわよね」

そう思わない?としたり顔で聞く和美に、綾子が奥歯をギリギリ噛みしめながら、そうかと気付く。

和美は恐らく篤紀がちえりに向ける好意に気づいているのだ。
だからこそ、ちえりがその想いに応えないようにと釘を刺しにきている。

ロミオとジュリエットは相思相愛の仲だ。それに篤紀とちえりをなぞらえるという事は……ふたりが想い合っていると分かっての事。

その上で関係をつぶしにくるなんて、非道もいいところだ。





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