社長に求愛されました
童話で言うなら、邪魔者のわき役に違いない。ラストは腹でもかっさばかれて石でも詰め込まれてしまえばいいのに。
ちえりに対しての明らかな攻撃にそんな殺意まで浮かんだ綾子だったが、さすがにそれをしたら犯罪だし、それどころか少しでも言い返したら問題になるんだからやっていられないと不満をため息で逃がす。
今日は、白石出版専務の娘の結婚パーティーなのだから、今ここで問題発言をしたら会社に関わる。
そう思い留まった綾子が舌打ちをしながら、気を紛らわせるためにと泳がせた視線。
それが、和美の後ろに立つ人物に止まる。
「……おい」
思いきり顔をしかめ、冷酷なオーラを放つ篤紀の姿に。
いつからいたのかは綾子にも分からなかったが、声もいつもよりも低く小さい様子から、かなり不機嫌な事が分かる。
……マズイ。篤紀の気持ちは120%分かるが、今怒るのはマズイ以外何者でもない。
しかも、社長令嬢相手に、おい、ときたもんだ。……確実にマズイ方向に進んでいる。
「黒崎さん、戻ってきてたんですね!」
明るい声で笑顔を向ける和美には、危険察知能力が欠けているんじゃないのかと、綾子がハラハラしながら思う。
今の篤紀はどう考えたって不機嫌マックスで、しかもそれはすべて和美に向けられているというのに、当の本人である和美はまったくそれに気づいていないのだからすごい。
助かったが、恋するとその辺の感覚がおかしくなるんだろうかと綾子が嫌味半分に思っていた時。
ちえりが篤紀に声をかけた。