社長に求愛されました

「社長。和美さんがお話したがってるようですので、仲良くお話ししてくださいね」

白石出版の社長令嬢である和美。
そんな肩書を全部すっとばして言葉悪く全力で罵りそうになっている篤紀に気づいて止めたのは、他でもないちえりだった。

ちえりの言葉に思いきり顔をしかめた篤紀だったが……少ししてからツラそうにそれを歪める。

そんな篤紀の顔を見て、最初はどうしたんだろうと不思議に思っていたちえりだったのだが……。
少しして、その理由を知る。自分がきちんと微笑めていなかったからだと。

傷ついた表情がどこかに残っていたから、篤紀は今こんな顔をしているのだ。

傷つく言葉を言われて、でもそんなの気にしていないからと微笑んだつもりが、上手くできず篤紀に気づかれ……篤紀が心を痛める。

ちえりにとって、まるでそれは篤紀との心配していた未来図そのままだった。
不安や心配に思っていた事を今目の前で不意をつかれて証明されてしまい、やっぱりこうなるのか……と現実を突き付けられ胸が鈍く痛んだ。

なんでもないって顔をしたつもりだったのに、と……自分の演技力のなさに情けなくなりながら、篤紀に今度こそきちんと笑いかける。