社長に求愛されました
「じゃあ、あっちでお話ししましょう、黒崎さん」
するりと絡んだ和美の腕に引かれるまま、篤紀がその場を離れる。
心配している様子で一度振り向いた篤紀に微笑んで軽く手を振っていたちえりだったが……篤紀の視線が自分から離れたのを確認した瞬間に、微笑みが消え手をそっとおろした。
今まで自分のどこかに甘えがあった事を再度思い知らされていた。
篤紀とは向き合わない。向き合えない。
そう思いながらも、もし自分が篤紀に何も気付かせないくらいに誤魔化す事ができるなら、一緒にいる事も可能じゃないかとどこかで思っていた事に今気づく。
その証拠に、誤魔化す微笑みひとつ満足にできない自分を証明された事に、ひどく落胆してしまっていた。
最後の望みを断たれた、そんな言葉がぴったりだった。
無理だダメだとずっと自分で言い聞かせてきたつもりだったのに、その中で少しの可能性を探してそれに賭けたくなるほど、自分は篤紀を想っていたのか……。
そんな事まで思い知らされていた。
気付いたところでもうどうにもできないのに。
押し込んだ胸の中で、篤紀への想いが膨らみ暴れ……ちえりを鈍く、でも確かな痛みが襲っていた。