社長に求愛されました
これがちえりがいなかったら、篤紀も綾子もここぞとばかりに、あの女ぁああ!と和美を指し祝いの席だろうが気にせず暴言を吐き出していたところだったが、それではちえりが気にすると判断しての平静を装った会話だった。
黒崎会計事務所が開設されて四年。
ただ紙相手の仕事をこなしているだけじゃなく、互いの事はそれなりに分かっているしチームワークは悪くないのだ。
「これを期に一気に距離を縮めようと向こうも必死なんですよ。
戻ってきたらまたあの派手なドレスを滑稽にひるがえして社長のところに来ると思いますけど……あ、これから何か始まるみたいですね」
ちえりが気にする。
それを意識していても漏れる悪罵はわざとなのかどうなのか。
綾子が見ている方向に、篤紀とちえりが視線を移すと、確かに黒のスーツに身を包んだ従業員らしき人が何人か中央付近に集まっているのが目に入った。
よく見ると花嫁の手にはブーケがある。
という事は、ブーケトスでもするのだろうかと、綾子が首をひねる。
式ならまだしも、今回のパーティはレセプションパーティーであって披露宴とも二次会とも違う。
式と同日に行われるそのふたつでするならまだしも、こんな仕事の関係者のみを集めたパーティで行うものだろうか、そう考えたからだ。
「これって、アレですかね。やらせブーケトス」
「やらせ?」