社長に求愛されました


普段の声のトーンと同じ明るさで聞き返したちえりに少しホっとしながら、綾子がため息がてらに説明を始める。

「どうせ和美さんがとるように仕組まれてるんじゃない? それで、ブーケを受け取った和美さんを見た白石社長が“次に結婚するのは和美かー、どうですか? 黒崎社長。うちの和美をもらう気はありませんか”的な流れになるとかね」
「……なるほど。なんかもう画が見えるようですね」

今日のパーティーだって、主役である専務の娘夫婦をそっちのけで、和美は篤紀にべったりだ。

特別堅苦しいパーティーではないから、主役をちやほやする必要はないのかもしれないし、わいわいやれればいいという趣旨なのだろうとは考えられる。
無礼講とまでいかなくとも、それに近い雰囲気がある。
だから色々と自由ではあるのだろうけれど……それにしても和美のドレスは派手だった。

サテン生地のような光沢のある赤いドレスには、黒い大輪の花の刺繍がほどこされている。
形は、まさにウエディングドレスそのもので、大胆なチューブトップにふんわりとした足首まであるスカート。
童話のお姫様が着ているようなドレスは、色味もあいまって確実に花嫁よりも目立っていた。


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