社長に求愛されました


表向きは結婚披露とされているレセプションパーティーにはそぐわない裏事情。
それを淡々と推理する綾子とちえりを見て、篤紀がため息を落とす。

ため息の半分以上は、説明するまでもなく、いつも通りのちえりに対しての安堵だ。
和美に言われた事で傷ついているのは分かったが、とりあえず今は気が紛れているようでそれに胸を撫で下ろしていた。

そして、残りはちょっとした不満からだった。

和美に狙われてるって事を分かりながら、なんでちえりはこうも冷静にその事実を受け入れられるのかと、そこが不満だった。
この会場に来る前のちえりの部屋では、キスだって許した上、可愛らしく自分からおでこを篤紀の胸にくっつけてきたというのに。
好きという言葉こそ言われなかったが、それに似たような間接的な言葉を言ったくせに……この変わり様はどういう事なんだと、眉をしかめる。

言いたくない事なら言わなくていい。
そう言ったのは確かに自分だが、それにしたってちえりの気持ちが分からなかった。

想ってくれている気はする。
ちえり本人も言っていた通り、好きでもない男とキスできるような女だとも思わないし、その上で自分のキスは受け入れるのだから恐らくそういう事なのは分かる。


< 93 / 235 >

この作品をシェア

pagetop