社長に求愛されました
だけど、ならなぜ好きだと言ってくれないのか。
なぜ……ひどく悲しみに駆られた瞳をするのか。
必死に何かに耐えているような顔をするのか。
篤紀にはそれが分からなかった。
ちえりに一番近い男は恐らく自分だと自信はありながらも、確信が持てない。
三年待てばそれも変わるのだろうと思っていたが、今日のちえりの話を聞く限り、そういうわけでもなさそうだ。
一体、ちえりが何を不安に思い、悩んでいるのか。
言えばそれがどんな事でも解消するし、どんな協力も惜しまないのに、ちえりはひとりで抱え込むだけで頼ろうとしない。
なんでもひとりでやり遂げようとする責任感の強い部分は魅力のひとつではあるのだが、そんな甘え下手な部分に、篤紀はため息を落とすばかりだった。
そうこうしているうちに、ブーケトスの準備が整い、会場内にスピーカーから呼び出しがかかる。
――ブーケプルズに参加される独身の女性の方はお集まりください、と。
「ブーケプルズ? ブーケを投げるのかと思ってたら違うんですね」
「ああ、投げる感じだとうまく裏工作できないからじゃない? いくらお金かけてても、招待客の瞬発力とジャンプ力までは把握できないだろうから」
「そういえば綾子さんって、学生時代、走り高飛びの選手だったんですよね?」
「あんた私に飛べっていうの? 無理よ、マット敷いてくれなきゃ」
「……マットがあったら飛ぶ気ですか」