社長に求愛されました
そんな話をしながら笑うふたりの視線の先に用意されたのは、たくさんの赤いサテンのリボン。
まるで和美のドレスと合わせたようなリボンの色は、裏工作の疑惑をますます強めている気がして、綾子もちえりも苦笑いしか浮かばない。
花嫁の持つブーケから枝分かれしているたくさんのリボン。そのうちの一本だけが本当にブーケに繋がっているという仕組みらしい。
今はああいう形のブーケトスもあるのかと呑気に眺めていたちえりに、篤紀が「行かないのか」と不可解そうに話しかけた。
「結婚式自体初めてなんだろ? 憧れじゃねぇの? ああいうの」
「憧れはありますけど、でもまだ結婚って歳でもないですし。
それにあんなに意気込んでいる和美さんを前に万が一ブーケを引き当てちゃったら後が怖いですから」
ちえりの先にいるのは、いつの間にかトイレから戻ってきてブーケプルズが行われる場所に既にスタンバイしている和美だ。
後ろ姿からでも分かるくらいにただならぬ気合いが漂っている。
「おまえたちの推理だと、和美さんがブーケとったら、俺と和美さんは公認の仲みたいになるんだろ?
おまえは……それでいいのか?」
篤紀は不貞腐れたような顔だけれど、その目は真剣そのものだった。
そんな風に聞かれたちえりは……ああやっぱりあの時きちんと突き放すべきだったんだと後悔する。
あの時……ここに来る前の部屋で、抱き締める篤紀の腕を解いて、何年待たれても付き合う気はないのだと言っておけばよかった。
そうすれば今、こんな風に聞かれる事も、ツラそうな顔を見る事もなかったのだから。