社長に求愛されました
「もう、何も言わないって言ったハズです」
「……そうだけど」
あの時……一時的に昂ぶった感情に流されるまま、篤紀に想いをぶつけてしまった事を今更後悔しても遅い。
大切な存在だと伝えてしまった事も、抱き締め返してしまった事も。
篤紀がとっくにちえりの気持ちに気づいていたとしても、ちえりが言葉にするのとしないのとでは違うのだから。
言うべきじゃなかった。抱き締め返すべきじゃなかった。
篤紀の未来よりも、一時的に自分の気持ちの方を大事にしてしまった自分を今更気づかされて、鈍い痛みが胸を押し潰す。
篤紀の幸せを願うなら、もっと前にハッキリとさせるべきだったのに、今までそうする事ができなかったのは……。
自分の気持ちを優先させていたからだ。
傷ついた目で見つめてくる篤紀を前に、そんな事を思い知る。
今まで強引だからと篤紀のせいにしていた事は全部、自分の甘えからだったのだと。
全部篤紀のせいにして仕方ないと片付けていたけれど、ハッキリと断る機会は何度でもあった。
それを断らなかったのは……もう少しこのままでいたいという、自分のわがままからだった。
そしてそれに気づきながらもそのわがままを通してここまできてしまった。
篤紀が好きだかこそ、一番に彼の幸せを願わなくてはいけなかったのに。
頭の中に、さきほどの和美の言葉がよぎる。