社長に求愛されました


『大企業の御曹司のロミオと一般庶民のジュリエットだったら……ラストはもっと悲劇的なものだったかもしれないわよね』

――その通りだ。

「ごめんなさい……」
「……は?」

急に謝罪の言葉を口にしたちえりに、篤紀が驚いて顔をしかめる。
そのまま黙り込んだちえりの肩をそっと掴んだ篤紀が顔を覗き込むようにして屈むと……ツラそうに顔を歪めたちえりが、その視線から逃れるように顔を背けた。

……もう、このままじゃダメだ。
肩を掴む篤紀の手に触れたくなる気持ちがどんどん大きくなる。
そんな自分に、もう傍にいる限り離れるなんて無理だと確信した。

離れないと、篤紀の幸せすら奪ってしまうのだと。

「社長……」
「……ん? どうした?」

返ってくる優しい声色が、ちえりの胸を痛いくらいに締め付ける。

このまま……告白する事ができたら、どんなに楽だろう。
そんな事を考えながら、ちえりは拒絶の言葉を声にするためにゆっくりと口を開く。


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