恋はしょうがない。~職員室であなたと~
「…は?」
いたずらっぽい目をした古庄に切り返されて、真琴の表情が固まった。
「賀川先生には、彼氏がいるのかどうか?」
「ええっ…!!」
今度は真琴の顔が、有紀と同じように真っ赤になった。
何とか話をごまかして、答えずにすむ方法を考えたが、有紀からも見つめられ、真琴は観念した。
「私も彼氏はいません。仕事が忙しくて、そんな暇なくて。でも、まだ20代だから、ご心配なく」
動揺のあまり、真琴の口からは思ってもみないことが勝手に飛び出してくる。
こんなこと言ったら、彼氏がいない状況を言い訳して焦っているみたいだった。
真琴にはあまり男性と付き合った経験がない。
大学時代には、いわゆる「彼氏」がいたが、その男性とも大学を卒業して環境が変わり数年もしないうちに、自然消滅のような形で終わってしまった。
それから、5年。
真琴の毎日は仕事に明け暮れ、楽しみと言えば、週末に女友達と映画に行ったりショッピングをしたりすることくらいだ。
でも、それもいつまで一緒に楽しめる相手がいるか……。
現に、友人の一人が、夏休みに結婚する予定だ。
結婚した友人とは、今までのように思いついた時に、気ままに遊びに出かけることは難しくなるだろう。
古庄が笑いを含ませた視線を残して机へと向き直り、持参の「日本経済新聞」をめくって、そこにある記事を読み始めた。