恋はしょうがない。~職員室であなたと~
「一時の気の迷いなんかじゃない。もうずっと、出会った頃から、君のことを想っていた」
古庄のその言葉は、真琴の胸に深く突き刺さり、真琴の感情を乱す。
その胸の傷口から、古庄への想いが堰を切って溢れてきて、口を開いた途端に古庄への愛を語ってしまいそうだった。
両手を組んで、きつく握りしめる。
唇を噛んで目を閉じ、感情の荒波が収まるのを待って、真琴は再び口を開いた。
「私と出会った頃には、もう結婚は決まっていたはずです。私なんかより、静香さんの方がずっと綺麗で聡明だし、いい奥さんになれる人なのに……」
「……確かに、芳本さんは結婚するには申し分のない人だと思ったよ。大学の同窓会で知り合って、いきなり芳本さんの両親に紹介されて……。それからは、一気に『結婚』という話になってしまって……」
婚約者に対して「芳本さん」という呼び方は、かなり不自然だ。
古庄自身はあまり乗り気ではないのだろうか。
静香も、少し強引過ぎたのかもしれない。
でも、この宝物のような古庄を、早く自分だけのものにしたいと思ったのだろう。
それに、真琴は知っていた。
静香がこの結婚のことを話す時、とても幸せそうに微笑んでいたことを。
深く古庄のことを想っていなければ、あんな顔はできはしない。
そんな静香を思い出して、真琴の心は黒い霧にかき乱された。