恋はしょうがない。~職員室であなたと~
「……ありがとう……」
と、唇を噛んだ後、もう一度同じことを繰り返した。
その愁いを含んだような声色に、真琴の胸が切なく痺れる。
顎が震えて、涙が滲んでくるのを押し隠すように、有紀の肩を抱いて戻るよう促した。
職員室を出た瞬間、有紀の目からは涙がポロポロと落ちてきた。
真琴は有紀の肩を抱いたまま、人気のない所まで連れて行き、
「『おめでとう』って、よく言えたね。偉かったよ」
と、言葉をかけた。
褒められるともっと泣けてくるのか、有紀は鼻をすすってしゃくりあげ始める。
「先生―……」
有紀が頭を付けてきたので、真琴はそっとその胸に抱えてあげた。
有紀は有紀なりに、真剣に古庄のことを想っていた――。
だからこその涙だ。
この恋は実らなかったけれども、きっと有紀の中で昇華されてもっと素敵な恋ができる。
この涙は、そのための訓練のようなものだ。
「大丈夫。有紀ちゃんは、古庄先生よりもっといい人に出会えるよ」
「古庄先生より、いい人っているのかな……」
有紀の呟きを聞いて、真琴は苦笑した。
確かに、古庄よりもいい男を見つけるのは大変だろう。
苦笑を微笑みに変えて、真琴は続ける。