恋はしょうがない。~職員室であなたと~
しばらくお互い自分のするべきことに没頭して、沈黙が資料室の中を流れていく。
「……教科書や問題集の類は、一番新しい分だけ取っておけばいいから」
不意に古庄が口を開く。
真琴は自分にかけられている言葉だと理解するのに時間を要したが、
「……はい」
と、短く答えた。
「うわ!これ、いつの地図だ?昭和60年!?こんなのは、もう使えないよなぁ」
そんなことを独り言のように発していた古庄に、今度は真琴の方から切り出した。
「静香さんを……不幸にしたら、許さないって言いました」
その言葉を背中に投げかけられて、古庄は地図を確認する手を止めて振り向いた。
「……芳本さんが不幸にならないために、結婚をやめたんだ。俺がこんな気持ちであのまま結婚式を挙げても、どっちみちすぐに離婚しただろうし」
古庄が悪びれずに淡々と語るので、真琴は少しカチンときた。
しかし、古庄をそんな気持ちにさせてしまったのは、誰でもない自分だ。
「……私のせいですね。私に出会わなければ、こんなことにはならなかったでしょ?」
そう言いながら、涙が込み上げてきて、真琴は泣き出しそうになった。
その震える声を聴きながら、古庄も顔を曇らせる。
「過去のことを振り返って、それを否定してもどうにもならないよ。どんなことも起こるべくして起こってるんだ。
君は歴史を教えてるけど、歴史ってそう言うことの積み重ねで作り上げられていくんだろ?過去のことは変えられない。でも、今に活かすことはできるんだよ。」
ズキンと痛みを伴って、古庄の言葉が真琴の胸に沁みわたる。
痛みに耐える間、真琴はキュッと唇と結んだ。