恋はしょうがない。~職員室であなたと~

職員室での抱擁




それから9月になり、古庄が結婚していないという事実は、職員をはじめ生徒の間でも、すぐに知れ渡った。


古庄は結局、結婚式の招待状も送っておらず、初めからその気がなかったというようなことを、真琴も人づてに聞いた。



「お祝いもらって派手な結婚式上げてから、すぐに離婚してひんしゅく買うより、多少迷惑かけてもドタキャンした方がいいよ」


と、同じ1年の担任をしている戸部が言うように、古庄の行為を肯定的に理解してくれる人がほとんどだった。


だが、破談になった相手の静香に、恥をかかせてしまった事実は消せない。

きっと、古庄はその決断を実行にするために、たくさんの人に陳謝し、頭を下げて回ったのだろう。



「……結婚してないって分かったけど、前みたいに古庄先生のこと見ても、ドキドキしなくなっちゃったな……」


そう言ったのは、有紀だ。
有紀は古庄に「お祝い」を言った時、自分でその淡い想いにピリオドを打っていたのだろう。

ただの憧れで人を好きになるだけでは、その恋は実らないということが分かったらしい。


そう言えば、放課後になると古庄の周りにたむろしていた女子生徒たちも、最近では見かけなくなった。

春、いきなり古庄の圧倒的な容姿に出会ってしまい、それにのぼせて浮かされていた熱も、秋の気配と共に冷めていってしまうのだろうか……。




9月になると学校も、体育大会と文化祭の準備に活気づき、慌ただしくなる。

真琴の分掌である特別活動の教員たちも、その指導に当たらねばならず、何かと忙しい時期になってきた。


それでも、自分の周りの騒がしさなどに煩わされずに、机に着いて新聞を読む古庄の日常は、いつもと変わりがなかった。



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