恋はしょうがない。~職員室であなたと~
文化祭直前になると、遅くまで残って作業をする生徒もいるので、帰宅を促しながら校内を巡視するのも、特活の教員の仕事だ。
そして、真琴のその日最後の仕事も、古庄と二人で校内を巡視することだった。
以前ほど、真琴は古庄の側にいることを、苦しいとか辛いとは、感じなくなっていた。
あれから、古庄は自分の気持ちを真琴に押し付けることもなく、ただの同僚として普通に接してくれている。
困ったときにはさりげなく助けてくれるので、いつも気にかけて見守ってくれていることは、真琴にも感じ取れていた。
そんな古庄を想うと、胸が切なさで張り裂けそうになる。
古庄の想いに応えて、その胸に飛び込みたくなってしまう。
…けれども、それを阻む足かせになっているのは、静香への誠意だった。
静香とはまだ直接話をしていなかったが、結婚式を直前で取り止められた花嫁の気持ちを慮って、真琴の心は苦しく痛んだ。
真琴の中にはそんな思いがいろいろと交錯して、古庄と二人きりになることは、少し気が重かった。
「二手に分かれて、分担して校内を回りましょう」
という真琴の提案に、古庄も黙って頷く。
それぞれ、手には懐中電灯を持って、薄暗い校舎の中を巡視に向かった。
明かりの点いている教室に赴いて、生徒たちに声をかける。
暗い廊下を、懐中電灯を照らして歩いていると、向かいの校舎を歩く古庄の明かりが見えた。
そこに古庄がいると分かるだけで、真琴の胸はキュンと切なく鳴いてしまう。
こんな時、やっぱりどうしようもなく古庄のことが好きなんだと、改めて自覚する。
巡視も終わろうかという頃、1年生の教室の前で、文化祭で使う段ボールが散乱しているのに出くわした。
真琴は懐中電灯をロッカーの上に置き、一つため息を吐いて「明日、お説教しなきゃ」と思いながら片づけた。