恋はしょうがない。~職員室であなたと~
片づけに手間取った後、やっと巡視を終えて職員室へ戻ってきたときには、そこは閑散とし、すでに誰もいなくなっていた。
もう一つの懐中電灯が戻されているので、古庄も巡視を終え、帰宅したらしい。
真琴はホッとしてため息を吐いた。
誰もいないところで、古庄と二人きりになりたくなかった。
資料室での古庄の言葉を思い出すたび、鳥肌がたち、胸が熱く鼓動が乱れる。
どこから見ても完璧な古庄から、あんなに深い想いをかけられる不相応さに、真琴は体をどこにも置けないような、以前とはまた違った意味で居心地の悪さを感じていた。
それに二人きりになると、自分を制御できずに、いつ古庄への想いが溢れてくるのか分からないのも怖かった。
真琴は、手早く帰り支度をして職員室を後にした。
職員通用口への階段を下りていた途中で、職員室の消灯をしていなかったことに気付き、引き返す。
入り口の側にある電燈のスイッチを切るために、明かりの灯る職員室のドアを開けた。
するとそこには、今まさに、スイッチの上に手を置いている古庄がいた。
勢い余って、真琴が古庄の胸にぶつかりそうになった時、職員室の照明が落ち、薄暗闇が真琴を覆った。
その瞬間、真琴の体は暖かいものに包み込まれる。
古庄の息遣いを髪に感じて、真琴は自分が抱き締められていることに気が付いた。
「……すまない。こんなことすると、迷惑なのは分かってる。だけど、少しの間でいいから……」
そう言いながら、古庄は真琴を抱く腕に力を込め、懐深くに抱き込んだ。
その力の強さに、真琴は自分への古庄の想いの強さと深さを感じ取る。
抗うことはせず、しばらくじっと目を閉じて、古庄の腕の中の感覚を味わった。