恋はしょうがない。~職員室であなたと~
 
 
 
「……どうして……?どうして私なんですか?」


古庄の腕の中から、真琴が密やかに発した。


「私なんて取り立てて自慢するところもない、十人並みの女ですよ?
古庄先生だったら、もっと素敵な女性に想われることもあるだろうし、そんな女性だって落とせるでしょう?」


それは、真琴が古庄から想いを告げられてから、ずっと疑問に思っていたことだった。


「君は……、十人並みなんかじゃなくて、俺にとってはたった一人の人なんだ」


古庄も静かな声で、自分の胸にいる真琴に囁きかける。


「そりゃ、たくさんの女の人に寄って来られて、20代の前半くらいまでは適当に付き合った人もいたけど。
俺が自分から、心の底から好きだと思えたのは、君が初めてで、これが人を好きになることなんだと思った……」


古庄は真琴を抱き締めたまま、そう自分の想いを告げた。
そして、真琴を包むその手のひらに、真琴がかすかに震えはじめるのを感じる。



「……どうして、そんなに私を想ってくれるんですか……?」


か細く震える真琴の声を聞き、古庄は腕の力を緩め、真琴の顔を見下ろした。



「……どうしてかって、それは……。あの、校門脇のしだれ桜だよ」



“しだれ桜”の意味が解らず、真琴は無言で古庄の言葉を待つ。



「あのしだれ桜を見上げる君を見た瞬間に、俺は雷に打たれたよ。一目惚れだった……」


その古庄の言葉自体が、今、雷となって真琴の胸を貫いた。

真琴はもう自分の気持ちを抑えきれずに、涙が溢れ出してくる。




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