恋はしょうがない。~職員室であなたと~
 
 

 
「私も、あの日、遠くからあのしだれ桜の花に包まれる男の人を見て……。その人はずっと私の心に住んでいました。鮮やかな紫のラグビージャージを着た人です」


静かに真琴の顔を見つめていた古庄が、自分のことだと気付き息を呑む。


同じ日に、同じような光景を、お互いが目にして、そこでそれぞれが恋に落ちていた――。



「ああ……」



想いが通じ合っていることを確信して、古庄はいっそう力を込めて真琴を抱き締める。

真琴もそっと古庄の背中へと腕を回して、ワイシャツを握りしめた。


いつも居心地が悪いと思っていた古庄の側だったが、心の柵を取り去ったとき、その腕の中はこの上ないくらい安心できる場所だった。


ずっとこの優しさに包まれていたいとは思ったが、真琴はやはり、重い足かせを外すことまではできなかった。



「……でも、古庄先生と付き合うとかそう言うのは、しばらくはできません」


古庄の胸に手を突いて、真琴は抱擁を解いてくれるように促した。


古庄は、真琴の言葉を黙って聞き、言わんとしていることを考える。


「……分かってるよ」


静香の心が癒えるまで、しばらく時間が必要だ。


「どのくらい待てばいい?」


古庄は優しく真琴に囁きかける。


「……1年くらいですか?」


――長すぎる!と、思わず古庄はため息を吐く。
しかし、そのくらいの代償はいたしかたない…と思い、その息を呑み込んだ。


「……分かった。待つよ、1年間。」


唇を噛んで古庄が頷くのを見て、真琴も少し寂しそうにうなずいた。



「そのかわり!」


と、古庄がもう一度真琴の腕を掴むと、真琴は目を丸くして古庄を見上げた。


「その間、俺以外の男のことを好きになったりしないでくれ。それに、……俺の側を離れてどこかに行ったりしないでくれ。それに……」




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