テノヒラ
先輩が連れてきてくれたお店は、小ぢんまりしたオシャレな雰囲気の場所で、黒づくめの就活生な私は入るとき少し気おくれしていたけれど、席に着いてメニューを見ているうちにそんな気持ちもなくなった。

「で、またダメだったってわけですか」

日替わりランチとハンバーグランチを注文した後メニューを閉じながら、先輩が話を振ってくれる。

「そういうわけです。結局私どの企業にも必要とされてないんですよ、何のとりえもないしそりゃあ私が人事でも私のことなんて採りたくないです」

だから私は、遠慮なく愚痴をこぼす。

どんなに引き摺らないようにと思っていてもやっぱりこう何度も不採用通知が来ると気持ちが落ち込む。

「うーん、彩はネガティブすぎるんだよ。この商品全然ダメだって思ってる人に、売りつけられたって買おうと思わないでしょ? それと同じで彩が自分のことダメだって思ってたら全然魅力が伝わらないよ」

だから、先輩の言うことが本当にその通りだとわかっていても私は

「そんなこと、わかってますよ。私だって自分に自信持ちたいんですけど、どうしたらいいかわからなくて。卑屈な性格は簡単に直せないんです」

どうしたらいいのか分からない、どうしたらいいか分からないんだ。

うつむいてしまった私を気遣ってか、

「ところで彩今日は、ヘアコロンでもつけてるの」

先輩は話を変えてくれる。

「今日先輩と久しぶりのデートなのにスーツだからせめて髪だけでもと思って最近買ったもの使ってみたんですけど、きつかったですか」

「ううん、すごくいい匂いだよ。彩はいつも俺のために努力してくれるなって思って」

先輩のために努力しているわけではなくって私はただ、

「先輩に釣り合う女になりたいんです」

かっこよくて優しくて異性にも同性にも人気者の先輩に、釣り合う彼女になりたいから。

「釣り合うも何も、彩は俺の彼女だよ。でも彩は努力しようとする。俺はそこが彩のよさだと思うんだ。現状に満足せずもっと上を目指すところ。あと必要なのは、本当に心の底から行きたいと思える会社に出会うことなんじゃない?」

「心の底から行きたいと思える会社、ですか」

「そう、それが見つかれば彩は絶対に努力できるから、自分に自信を持てるし、その気持ちは伝わるよ」

俺が彩のまっすぐな気持ちに魅かれたみたいにね、と少し照れくさそうに付け足す先輩の言葉に私も少し照れてしまうけれど、

「先輩、ありがとうございます」

こんな風に私を見てくれる人が、いる。

「よし。笑顔な、笑顔。彩は愛嬌があるから笑顔でいれば大丈夫、ほら笑って」

先輩がそう言ってまた私を元気づけるように頭を撫でてくれる。

その手の心地よい重みに私は自然と笑顔になれた。


大きくて、すべてを包み込んでくれるその掌が私を安心させてくれるから。
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