蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

分からない。


こんな気持ち、私は知らない。


「う……ん」


「!?」


藍の気配を感じたのか。


熟睡していると思っていた拓郎が身じろぎをして、藍は飛び上がりそうになってしまった。


「あ、芝崎さん、着替えて寝ないと、スーツがしわになっちゃいますよ。それにちゃんとお布団に入って寝ないと風邪を引きます!」


「ん……」


思わずまくし立ててしまった藍の言葉に、拓郎が微かに返事らしき声を漏らした。


「芝崎さん、着替えましょ?」


「う……ん、藍……ちゃん?」


「はい。ネクタイ、外しますよ?」


とにかくネクタイを外そう。


上着はともかくネクタイだ。


何故そんなにネクタイに固執するのか、藍自身も分からなくなっていたが、とにかくそうしないといけないような使命感に燃えていた。

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