蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

動きがぎこちない一番の原因は、昨夜深酒しすぎたからでも、何年ぶりかで偶然再会した年上の元恋人に『女心の何たるか』を、延々とレクチャーされたからでもない。


――冗談だろ?


拓郎は、君恵の家に『お泊まり』している筈の藍がパジャマ姿で、それも自分の腕枕でスヤスヤと眠っているのを見て、見事に固まった。


――なんだ、これは?


なんで、こんな事になっているんだ!?


たらりたらりと、変な汗がにじみ出す。


「う……」


襲ってくる頭痛と寒気に、藍を抱えたまま思わず呻き声を上げる。


完璧に二日酔い状態の脳細胞をフル回転させて、拓郎は必死に昨夜の出来事を順に辿った。


黒谷邸のクリスマス会場で、しこたま麗香に飲まされて、『今後の為にお姉さんが、女心の何たるかを一から教えてあげる!』と延々とレクチャーされ、それからタクシーで彼女をマンションまで送って、その足でアパートに戻ってきたのが、多分3時か4時ごろ。


どうせ藍は『お泊まり』に行っているから、『いいや、ベットで寝ちまおう』と思った……んだよな、確か。


記憶は、そこで途切れている。


記憶は途切れているが、微かに覚えているものがある。


柔らかい、唇の感触。


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