蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
あれは、夢か、それとも――?
「くしゅんっ!」
再び上がったくしゃみの音に、ギクリと思考も止まる。
恐る恐る藍の顔を覗き込むと、きょとんと自分を見ている藍の茶色の瞳とバッチリ視線がかち合った。
「あ、おはようございます」
「……おはよう」
ニッコリと朝の挨拶をしてくる藍に、拓郎はぎこちない笑顔を返す。
自分の行動に自信が無い。
全くない。
救いは、『起きたら一糸まとわぬあられもない姿』、という状態じゃ無かったことだが、だからと言って安心は出来ない。
拓郎には、何かをした微かな記憶があるのだ。
顔も引きつろうと言う物だ。
「寒いですね。すぐに部屋を暖めますね」と、ベットを降りてLDKの方へ歩いて行く藍の後ろ姿を拓郎は呆然と見送った。
藍は、まるでいつもと変わらない。
これは、どう判断したら良いのだろうか?
あれは、夢だったのか?
誰か、夢だったと言ってくれ。
聖なる夜の翌朝。
真実を藍に問いただす勇気も持てず、悶々と二日酔いで痛む頭を抱えながら、もう二度と深酒はすまいと、固く心に誓う拓郎の姿があった。