蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「な、何ですか美奈さん。その、不気味な笑いは?」
「別にぃ、何でもないわよ? 私の天使のような微笑みが不気味に見えるとしたら、拓郎、あんたの方に何か後ろ暗い所があるんじゃないの? ほら、白状しちゃいなさいよ」
顔を引きつらせて、しどろもどろに言葉を詰まらせる拓郎をしげしげと見やり、美奈はきつい突っ込みを入れる。
美奈の言う通り。
『後ろ暗い所』が大有りでバッチリ思い当たる拓郎は、ぐうの音も出ずに言葉に詰まった。
勿論、後ろ暗い所とはクリスマスの、『寝ぼけて藍を抱き枕代わりにして、その上何かをしてしまったかも知れない件』の事だ。
結局、真相は分からないまま、拓郎の中には『果てしなくイケナイコトをしてしまった』と言う、後ろ暗い気持ちが根強く残っている。
好きか嫌いかとか、恋愛感情がどうとか言うよりもまず、酔っぱらって寝ぼけて自分がしでかしたかも知れない事に、大いなる罪悪感を感じずにはいられなかった。
一方、後ろ暗い所が微塵もない藍は、ニコニコとそれこそ天使の笑顔を浮かべて、美奈の娘の恵と佐藤家の飼い猫、ちゃーの生んだ子猫を楽しそうに見ている。
「まあまあ、立ち話もなんだから、まずは、座ったら。美奈、正月早々人をからかって遊ぶんじゃないよ」
美奈の夫、貴之が苦笑しながら助け船を出してくれたが、そのくらいで引き下がるわけもなく、「はいはい」と腕組みをする美奈の顔は、不敵に微笑んでいた。