蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
どうにかコーヒー逆流の余波が過ぎ去った後、拓郎は涙目で藍の顔を見詰めた。
「あの……大丈夫ですか、芝崎さん?」
心配そうに気遣ってくれる藍の表情に、一瞬拓郎は自分の耳が故障したんじゃないかと本気で疑う。
「今、なんて?」
言ったのでしょうか?
「え……? ああ、芝崎さんは、セッ」
「分かった! よーく分かった……」
思わず、藍の言葉を遮るようにそう言った後、拓郎はひとつ大きな溜息をついた。
やっぱり、聞き間違いじゃない。
それに、冗談で言っている訳でもないらしい。
その瞳は、真剣そのものだ。
それにしても、聞き方がストレート過ぎやしませんか、お嬢さん。
もうちょっと、オブラートに包むとか。
いや、そもそも、女の子がそんな事聞いたら、いけません。
ごほん。
拓郎は、内心の動揺を振り払うように、一つ咳払いをしてからゆっくりと口を開いた。
「ええ、と。それは、藍ちゃんと、と言う意味……なのかな?」
「はい」
藍はコクンと頷く。
動揺しまくる拓郎とは対照的に、答える藍の瞳には、羞恥心やてらいといった感情は見られない。
拓郎は、目の前にいる爆弾発言娘をまじまじと見詰めた。