蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
出来れば、ここから逃げ出したい心境だが、真面目に質問されている以上、真面目に答えるのが大人の勤めってものだろうと、拓郎は何とか自分に言い聞かせる。
「ええと……」
YESと答えたら、藍はどんな反応をするのだろうか?
一瞬よからぬ方へ考えが行きかけたが、果てしなく深い墓穴を掘りそうな予感がして、当たり障り無く答えをはぐらかす事に決めた。
「だったら、すぐに答えを出そうと焦ることないんじゃない? ほら、時間制限が有る訳じゃないんだから、こういう事はゆっくりと……ね?」
と、全く質問の答えになっていない言葉を、内心はともかく、表面的には努めて穏やかに言ってみる。
「そうですか?」
「……そう、思うけど?」
「そうですね」
それで、質問の答えは? と突っ込まれたら何と答えようとビクビクしていた拓郎は、ニッコリ笑みを浮かべた藍に引きつった笑顔もどきを向けた。
自分の言葉が嘘だ――と、拓郎は分かっていた。
藍の仕草や言動に、こんなにも動揺している自分が居る。
焦っているのは、自分の気持ちに気付いてしまった拓郎の方なのだ。