蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「ふふふ。藍ちゃんに聞いちゃった♪ クリスマスの夜、酔っぱらって押し倒したんだって?」
不敵な笑いを浮かべて、仁王像のようにそそり立つ美奈に、拓郎はげんなりと力の無い視線を向ける。
「話を作らないで下さい、人聞きの悪い。そりゃあ、酔っぱらって寝ぼけたのは確かだけど……」
「でも、キスして一緒のベッド寝たんででしょ?」
「え……」
そうか。
やっぱり、そうだっか。
根性なしに自分では確かめられずにいたことを、美奈にズバリと言われて拓郎は大きなため息をついた。
思わず項垂れる後頭部を、再び美奈にぺちんと叩かれて、拓郎はコタツの天板に突っ伏してしまう。
「何、正月そうそう、ため息なんかついてんのよ。珍しく重い腰を上げて偉いと褒めてやろうと思ったのに」
「……何だってそんなに俺と彼女をくっつけたがるんですか? 分かってますか、彼女は十七歳。未成年なんですよ。下手なことをしてお縄頂戴は、嫌ですから、俺」
「何、常識人ぶってるのよ。藍ちゃんをアパートに連れ込んだ時点で、もう立派にボーダーライン超えてるでしょ。何も無いって主張して、世間一般にそれが認められるとでも思ってるの?」
コタツに頬杖を付いて、ニヤリと口の端を上げる美奈は『全てお見通しよ』と、まるで魔女のような笑みをたたえている。
麗香にしても、美奈にしても、どうも拓郎には、こういう姉御肌の女性に縁が有るらしい。
「アパートに、連れ込んだって……そういうこと言いますか?」
そんな身も蓋もない。
「客観的事実でしょうが?」
うう、反論できない自分が悲しい……。
「はい、その通りです。お代官さま」
拓郎は、ギブ・アップとはかりに、両手を力無く上げて見せた。