蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
連れ込んだだけではなく、今も一緒に住んでいるとなれば、例えば藍の親なり身内なりに訴えられたら、事実はどうあれ、恐らく拓郎はめでたくお縄頂戴コースに乗り、新聞の三面記事を飾るだろう。
確かに意地の悪い見方だが、正論ではあるので、拓郎には何も言い返せない。
「これは、真面目な話だけど」
美奈は表情を改めて、声のトーンを落とした。
「……大事にしなさいよ。今時あんなに素直ないい子、いないわよ?」
どうも拓郎は昔から、この美奈と言う女性には頭が上がらない。
拓郎が中学を卒業して、母親の親友だった君恵を頼り上京してから実に十年以上、いつもこんな調子だった。
確かに年は二つ上だが、何よりこの姉御肌のさばさばした気性が、その原因だろう。
君恵と美奈母娘。そして美奈の夫の貴之と、その娘の恵。
佐藤家の人々は、拓郎にとって家族のような近しい人間達だ。
この人達に、迷惑を掛けるような事は、絶対出来ない。
「分かってますよ」
そう、分かっている。
藍に惹かれ始めている自分が居ることを。
そして、いつまでも、自分の気持ちに気付かない振りなど出来ないことも。
でも、焦りは禁物だ。
何よりも、藍の気持ちが拓郎にはまだ掴めていない。