蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
10 【動物園】
翌朝。
拓郎は、食欲中枢を刺激する『美味しそうな匂い』で目を覚ました。
パチリと目を開けると、キッチンでエプロン姿の藍が、楽しそうに何かを作っているのが見えた。
12畳ほどのLDKの隅に置いてあるコタツをどけて、布団を敷いて眠っているので、『目を覚ませばそこに朝食を作っている藍の姿がある』のは日常なのだが、今日はいつもの朝食の支度とは違うようだ。
「おはよう」
冬眠から覚めた熊のごとく。
のそりのそりと起き出して、寝ぼけ眼でぼんやりと料理を見詰める拓郎に、藍はニコニコといつもの笑顔を向ける。
「あ、おはようございます」
キッチンワゴンの上に置かれたタッパーの中には、オニギリ、卵焼き、たこウインナー、鶏の唐揚げと言った定番のお弁当のおかずが詰め込まれていた。
どう見ても、行楽弁当だ。
「今日は、いったい、何のイベントだい?」
又、美奈達と何か約束でもしたのかと拓郎が尋ねると、藍は楽しそうに瞳を輝かせた。
昨夜の、涙の影は微塵も見えない。