蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
変わったものと、変わらないもの。
あの時傍らにいた少女の姿は、もうここには無い。
時の流れは、なんて残酷に今という現実を突きつけるのか。
『芝崎さん』
藍!?
拓郎は、藍の声が聞こえた気がして慌てて振り返った。
素早く視線を巡らせるが、そこに人の気配は無く、早朝の散歩を楽しむ人影が遠くでまばらに見えるだけだ。
――もしかしたら、この公園を隈無く探し回れば、藍はどこかにいるんじやないか?
そんな考えが胸を過ぎる。
だが、拓郎の冷静な部分は、『ここに藍がいることはあり得ない』と理解していた。それでも、他に心当たりがないこの現状。
「はっ」
自嘲的な笑いが込み上げてくる。
お前は、馬鹿だ。大馬鹿だ。
もう二十八になろうっていう大の男が、情けないぞ!
拓郎は、ゆっくりと瞳を閉じる。