蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

風景写真が専門の拓郎だが、やはりそこは『売れないカメラマン』なので、食うための仕事をしなければならず、この藤田は、貴重な仕事を回してくれる数少ない有り難い人物でもあった。


雑誌社の編集長になる前は、某大手新聞社の報道記者で、色々な所に人脈網を張り巡らしているらしい。


警察もその一つで、『何かへまをしたら言ってくれ。袖の下無しで何とかしてやるぜ』と、冗談交じりに言われていたのを思い出して、こうしてやって来たのだった。


それが単なる酒の席での社交辞令だとは分かってはいるが、言葉は悪いがこの際手段を選んでいる場合ではなかった。


「はい。藤田さんなら、警察へのコネもあると思いまして……」


「コネねぇ……。まあ、知り合いの刑事は居なくも無いがな」


デスクの前に突っ立って、困ったような表情で頭を掻く拓郎を見やりながら藤田は、手にした写真にチラリと視線を落とした。


そこには、はにかむような笑顔でファインダーを見詰める藍の姿が写っている。


写真から視線を拓郎に戻した藤田が、ニヤリと意味あり気に口の端を上げた。

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