蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~

今まで、探偵なんて人種に全く縁が無かったのだ。テレビや映画じゃあるまいし、実際頼りになる物なのか甚だ怪しく感じる。


そんな拓郎の表情から内心を読みとったのか、藤田は皮肉気に『フフン』と鼻を鳴らした。


「警察ってのは、事件が起こらないと動かないものなのさ。例えツテがあっても、単なる人捜しには本腰は入れない……と言うより、一介の刑事では入れられん」


「そうなんですか……」


そのツテが頼りだったのだが。


「まあ、その点この瀬谷ってのは、警察より遙かに頼りになる奴さ。こと人捜しに関しちゃコイツの右に出る人間はいまい」


この敏腕編集長をして、そう言わしめる人物。


「そんなに凄い探偵なんですか?」


「まあな。年も若いし、かなり変わった奴だが、頼りにはなる」


『どれ、今は事務所に居るかな?』と、藤田はデスクの記事類の下に埋もれていた自分の携帯電話を引っ張り出すと、おもむろに電話をかけ始めた。


スリーコールほどで相手が電話に出ると、開口一番、何の前置きもなしに「おう、俺だ。今から客を行かせるから、宜しくな」と言ってすぐにブチッと携帯を切ってしまった。


電話を手に取ってから、いや、発掘し始めてから10秒と経っていない。


凄い早業……て言うか、今ので、用は足りたのだろうか?


人ごとながら、電話の相手に少し同情してしまう。

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