蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
拓郎が微妙な表情で、電話を元の位置に埋め戻す藤田の様子を見詰めていると、藤田は『ガハハ』と豪快な笑い声を上げた。
「電話はここに置くと決めてあるんだ。じゃないと、分からなくなっちまうんでな」
「はあ」
拓郎には、散らかっているだけにしか見えない書類のピラミッドと化している目の前のデスクの上も、この人には機能的に配置されている我が城なのだろう。
「まあ、と言う訳だ。今から名刺の住所に行ってみるといい」
藤田は、案外人の良い笑みを浮かべ、『さっさと行け』と言うように、右手をヒラヒラさせる。
鷹揚なようでも、そこにあるのは、打算の感じられない純粋な好意。
不思議と、自分に向け得られる感情の好悪がよく分かってしまう特技とも言えない特技を有する拓郎は、以前から藤田が自分を『気に入ってくれている』事を感じていた。
口は悪いし、人使いも荒い。
だが、自分を好いて居てくれる。
だから、拓郎は藤田という人物を頼る気になったのだ。