蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
人の好意に付け込むようで少し気が引けるが、今は『すがれる物なら藁でも』の心境なので、素直に有り難くこの好意を受けておくことにする。
「ありがとうございます!」
笑顔全開で礼を言い、ぺこりと勢いよく頭を下げて、拓郎はきびすを返した。
「芝崎!」
「はい?」
背中越しに飛んできた声に、何事かと振り返る拓郎を見やり、藤田が相好を崩す。
「お前、大分いい表情をするようになったな。以前は、どこか冷めた所があったものだが」
「はい?」
冷めた所?
俺が?
人が良いとか、人当たりが良いとか言われることはあっても、『冷めている』と言われたのは始めてだ。
藤田の目には、そう見えたのだろうか。
拓郎が返答に窮していると、藤田は例の皮肉気な目つきになると、『フフン』と鼻を鳴らして、手をヒラヒラと振った。
「いやいい。さっさと行け。彼女が見付かったら、酒でもおごれや」
「はい、了解です。ありがとうございました!」
名刺の住所は、都内。
車なら30分と言うところだろう。
為す術もなく、悶々としているのは性に合わない。
とにかく、これで動けることが嬉しかった。
拓郎は、その探偵に会うため、足早に雑誌社を後にした。