蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
15 【会長】
研究所のメインコンピューター『BM』のあるラボから、よく言えば『機能的』な、まるで華美さの無い簡素な執務室に戻ってすぐに、部下から報告を受けた柏木浩介は、普段の彼からは珍しく感情を表に、一瞬、怪訝な顔をした。
「日翔会長が、到着した?」
声にも、意外だというニュアンスが出てしまう。
日翔源一郎の来訪の報告である。
その予定は無かった筈だと、柏木は自分のデスクのコンピューター端末のスケジュール表を開き、素早く視線を走らせチェックする。
が、やはり記憶通り、会長の『か』の字も記されてはいない。
「用件は?」
柏木は、チラリと、メガネの奥の視線を端末から目の前に佇む部下に向ける。
「伺っておりません」
――特に用件が無いのか。
それとも、私に、直接言わなければならない用件なのか。
「藍には、知らせたのか?」
「はい、藍様は、もう行かれています。所長もお出で下さいとの事です」
この鉄面皮でも、『驚く』と言うことがあるんだな……と、珍しい物を見たような顔を部下がしているのも意に介さず、柏木はいつもの冷静な表情に戻ると、
「分かった、すぐ伺う」と、部下を下がらせた。