蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「うん、もう! お祖父様ったら、藍をからかって喜んで居るでしょう?」
「よう、分かっておるではないか」
柏木がノックをして、応接室のマホガニーの重厚な扉を開けると、にぎやかな笑い声が飛んできた。
楽しそうに談笑しているのは、会長の日翔源一郎と、一粒種の孫娘の日翔藍である。
「会長、所長がみえました」
入り口に待機していた会長秘書に軽く黙礼して、静かに部屋に足を踏み入れる。
一瞬、藍と柏木の視線が合う。
藍が、あからさまにホッとした表情を浮かべるのを視線の端で捕らえた柏木は、内心ため息をつきつつ、問題の人物に相対した。
「お久しぶりです。会長」
ニコリともせずに、挨拶とも言えない挨拶を済ませると、柏木は藍の傍らに、つまり源一郎に向かい合って立ち、軽く頭を下げた後ソファーに腰を下ろした。
無愛想なのは、今に始まったことではないので、誰も気にする者はいない。
むしろ、ここで柏木がニコニコ愛想を振りまこう物なら、不審がられることは間違いないだろう。
「柏木。忙しい所にすまんな」
そう言って、日翔老人は親しげに笑みを浮かべた。