蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~
「いえ。それで、今日の御用向きは何でしょうか?」
やはり表情は変えずに、柏木はズバリ聞きたいことを口に上らせる。
研究一筋の、無愛想な仕事の虫。
それが、一部の人間、例えは日翔藍など以外の人間が知る、日翔生物研究所所長・柏木浩介の姿だった。
「ふぉっ、ふぉっ。相変わらずだのう。近頃は、愛想ばかりが良くて、腹黒い輩ばかりが増えて辟易しておってな、たまにはお前の顔が見たくなってな」
老人は、柏木の態度に気分を害する風も無く、ひとしきり楽しそうに笑った。
勿論、そんな言葉を信じるほど、柏木は楽観的に出来ていない。
この老人が、何らかの目的も無く行動するような人間ではないことは、良く理解している。
その証拠に、老人はニコニコと楽しげな笑顔を纏っているが、その眼は一分の隙もなく柏木を睨め付けている。
それは、決してその笑いが心からの物ではない事を物語っていた。